使われていなかった! 通信傍受法

     (平成15年10月3日初出)

 『読売新聞』の一面に「治安再生」という連載があり、第四部「捜査とプライバシー」の5回目「通信傍受 現場の苦悩」(10月2日付)には驚いた。この法律、2000年8月に施行されて以来、なんと2回しか使われていないのだそうだ。どんどん使われて犯人検挙に役立っていると思っていたのに、なぜ? それにしても、こんな重要な情報がどうして国民のもとに届かないのか。

 使われない理由、その1。使うためには「令状」を取らなければならない。傍受令状を取るためには「組織犯罪であること、犯人特定のために傍受以外の手段しかないこと」を証明しなければならない。逮捕状の請求よりハードルが高い。「それ以外の方法がない」ことを立証するのは至難の業である。

 知らなかった、と言ったら叱られるかもしれない。「知らない方が悪い」と。タテマエとしては、たしかにそうである。しかし、と開き直るわけではないが、普通の日本人で、そういう事情を知っている人が何人いるだろうか。

 どうして、そこまで警察の手足を縛る必要があるのか。いわゆる人権主義者や野党の圧力で、これだけの厳しい条件をつけられてしまったのであろう。これでは使えない武器を与えられたようなものである。

 使われない理由、その2。使い勝手が悪い。というより、わざと意地悪をしているような手枷足枷が多すぎる。

 たとえば、やたらと人員がいる。慎重に何人もの捜査官が携わる。本格的な傍受を始める前に、数分間試し傍受をする(スポット傍受)。その間に犯罪と関係のない会話がなされていると、傍受はうち切られる。それから何日も傍受し、記録にとって、確かめた上で逮捕に踏み切る。そのために一日20名の人員が必要になる。要するに一口で言えば、運用がきわめて面倒なのである。言ってみれば、ギブスをつけて武器を使えと言っているようなものである。(ある暴力団関係者の話。「初めの数分間は世間話をする。いきなり本題に入るなと命令されている。それで電話の傍受は防げるそうだ。」記者は「人権に配慮したスポット傍受が逆手に取られていた」と書いているが、もっと重大な問題がある。警察の内部事情が暴力団に筒抜けになっているのだ。あきれたものである。)

 さらに「傍受期間」というものが決められていて、延長しても最大30日。その上、信じられないことだが、30日以内に傍受を当事者に通知しなければならない! 容疑者に捜査していることを教えるようなものである。(ちなみにアメリカでは、30日の傍受期間を無制限に延長できる。一昨年は1491件の傍受が実施された。)

 使われない理由、その3。警察庁幹部が自主規制なのか、なかなか許可を出さない。その理由は「まだ国民の理解は得られていない。要件緩和を持ち出すのは時期尚早」と立ち上がる気配がないそうである。

 事なかれ主義の官僚の保身と言われても仕方ないであろう。批判を怖れているのだろうが、国民の批判を恐れないで、一部の人権主義者の批判ばかりを怖れるのでは、弱虫と言われても仕方ないだろう。現場が使いたいと言ったときに、不許可ばかりだと、現場の警察官はやる気を失うだろう。士気に影響する。

 警察庁幹部はもっと前向きに積極的に国民に必要性を訴えて、世論を喚起していくぐらいの意気込みをもってもらいたい。でないと「治安再生」は単なるかけ声に終わってしまうだろう。

 治安再生のためには、国民の側も考え方を根本的に変える必要がある。警察ばかり責めるのではなく、警察が働きやすい条件を整える必要がある。第一は犯人を利するような、異常な縛りをなくし、警察の捜査をもっと容易にできるようにする。第二に、刑罰をもっと厳しくすること(せっかく捕まえても、すぐに出てきて再犯を犯す)。第三に刑務所の待遇をもっと悪くすること。(外国人犯罪者は、日本の刑務所は天国のようなものだとうそぶいているそうだ。人権の名のもとに居心地をよくしすぎている。)治安再生のためには、まだまだできること、やるべきことが、たくさんありそうである。

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