教育

3 お父さんたちの「家庭人宣言」

 ─ 佐賀県法人会の先駆的取り組み              

 

 佐賀県の働き手のお父さんたちが、家庭での子どもの教育に大いに関心を持ち、積極的に関わろうという「家庭人宣言」をして、実際の活動に入ろうとしている。これは非常に大きな意義を持つ運動になるだろうし、是非ともそうなってほしい運動である。

 直接的には、例のバスジャック事件の犯人が佐賀県在住の少年であったということがきっかけになっているのであろうが、しかしもっと一般的に最近の青少年犯罪の背景に青少年の規範意識の希薄化があることに対する危機意識の現われである。

 「法人会」とは、企業主たちの集まりであるが、この経営のトップにある人たちは「子供の教育に直接の責任を負うべき親たちの多くを社員として抱え、日夜業務に従事させている」立場から、「社員に対して、子どもの教育に必要な知識と時間を十分に与えてきただろうかという反省に立って」、社員の家庭教育への関心と関わりを高めようという運動を起こそうとしている。

 私は10月の半ばに、この組織が主催する「青少年問題を考える企業主セミナー」に招かれて「父性復権と企業の役割」と題する講演をさせていただいた。

 この活動のもとになっているのが、5月になされた「青少年問題に関する緊急決議」である。これは「家庭人宣言」とも呼ばれているが、非常に大切な内容なので、全文引用する。

 

「青少年問題に関する緊急決議文」

 私たちは「よき経営者をめざすものの団体」として納税意識の高揚、経営能力の開発、社員研修に励んできました。それらの努力は、日本の将来が間違いなく健全に維持発展するであろうという前提に支えられたものでありました。

 然るに、最近の青少年をめぐる問題は、そうした前提を大きく覆しかねない危うさをもって私たちに迫ってきました。私たちはいま現下の青少年問題を、例えば世界の潮流とか、教育関係者の問題であるとか、あるいは家庭の問題であるとかいって、看過するわけにはいかなくなりました。

 なぜならば、私たちは子供の教育に直接の責任を負うべき親たちの多くを社員として抱え、日夜業務に従事させているからであります。私たちはそうした社員に対して、子どもの教育に必要な知識と時間を十分に与えてきただろうかという反省に立って、さらには将来の社会の健全な発展に貢献するという法人会の「基本的な指針」に則って、現下の青少年問題に立ち向かわなければなりません。

 幸いなことに私たちは、経営者の社会的責任として、4年前から地域社会貢献活動を展開してきました。私たちには、現下の青少年問題を広く県民と語り合い、具体的な行動を通して社会運動化していく組織とノウハウを備え持っています。その力を、いま直ちに現下の青少年にも振り向けるべき時ではないでしょうか。

 そうした観点に立って私たちは、本日、青少年が健全に育つために必要な家庭教育、それを直接実践する社員研修を企業の中に採り入れ、青少年問題の一日も早い解消・解決に貢献する運動を、県連の総力を挙げて展開することを誓い、社団法人佐賀県法人会連合会第14回通常総会の名において決議します。

 

 これまで私はいかに「父性の復権」を唱えても、肝心の父親たちが時間を会社に百パーセント近く取られているという状態では、どうにもならないというもどかしさを感じてきた。

 ところが、この決議は、企業の側から積極的に従業員に対して家庭教育のための時間と知識とを提供しようという考え方を示している。たとえば、子どもの学校で PTA の会合があるとか、行事があるという場合には、その日に特別休暇を与えて、父親たちが参加できる環境を作ろうというのである。

 これまで、父親の役割が大切だと思う父親は増えてきているが、子どもが寝てから家に帰るという状態では子どもと接する時間もないというのが、多くの父親たちの嘆きであった。「父親よしっかりせよ」と言われても、家にいないのではどうしようもなかった。そういう状態そのものを改善しようという考え方が企業の経営者の側から出てきたことは、大きな進歩と言わなければならない。

 じつは今までは、私に対する「父性」に関する講演依頼はたいてい教育関係者からが多かった。しかしこのところ財界人・経営者と言った人たちからの講演依頼が増えてきた。名古屋を中心とした中部経済同友会や、鹿児島の政財界人からも講演を依頼されている。いずれも青少年の規範意識の希薄さと父性欠如の関係といったテーマに関する講演である。

 これまで家庭の中の問題に関心を寄せなかった経済人たちも、ようやく家庭教育の大切さに気づいてきたと言えるであろう。

 顧みれば、『父性の復権』(平成8年5月25日発行)が出版された直後の『読売新聞』平成8年5月31日付夕刊の「よみうり寸評」欄に、こんなことが書かれていた。

 

 「残業や単身赴任を減らし、休暇を取りやすくして、働く親、特に父親が子供と十分に触れ合いを持てるようにお願いします」◆奥田文相が根本日経連会長にこう要請した。いじめの解決や心の居場所を求める子供のために家庭教育の充実は欠かせない。要請はその手立てに「ご協力を」ということだろう◆「特に父親が・・・」というところを考えたい。当方はちょうど近刊の「父性の復権」(林道義著・中公新書)を読んでいるところだった

 

 その文部大臣の要請に対して、日経連がどんな具体策をもって答えたか、私は知らない。おそらくたいした関心を示さなかったのではないか。「ご趣旨は分かるが」残業を減らすわけにはいかない、というあたりが正直なところではなかったか。

 しかし子どもたちの精神状態はますます悪化しており、経済界も無関係ではないことが明らかになってきた。その自覚が、日経連という上からでなく、各地の経済人のあいだから起きてきている点に注目したい。

 子どもの教育を母親だけに任せておける時代は去った。父親たちは家族に関心を持ち、家族を大切にし、子どものしつけや教育に参加しなければならない時代なのである。

 佐賀県の「家庭人宣言」に代表される動きは、これからの家族のあり方にとって大きな象徴的な意味を持つと思われる。この運動をぜひとも全国的なうねりとして拡大していってほしいと願わずにはいられない。

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