「被害者の感情」という怪物または幽霊

      (初出 平成17年5月25日)

 中国側はしきりに「被害者の感情」を考慮せよと言う。本日の朝日の社説にも「被害者が感情を傷つけられていると言うなら、そうした思いを解く努力をする道義的責任は加害者側にある」と書かれている。それほど決定的な「被害者の感情」とはいったい何なのか。首相が靖国神社に参拝すると傷つけられる感情とは何なのか。どのようにして作られたものなのか。

 その感情は直接に被害を体験したことによって作られたものなのか。60歳以下の人たちは、体験をしていない。つまり自分の体験から感情が作られたのではなく、生まれてきてから事後的に聞かされたり教えられたりして出来上がった感情である。

 しかも、その被害の教え方が尋常ではない。まず「被害」がかぎりなく水増しされている。南京虐殺40万人がその代表だが(占領時の人口は20万人、全滅したはずなのに約一年後には44万人になった、治安がいいので集まったのである)(東中野修道『「南京事件」の徹底検証』)、日本軍はどこでも手当りしだい殺し強姦し略奪したことになっている。その上、その「悪」の様子が視覚的に展示され強調される。日本軍人が銃剣で中国人を殺していたり(なまなましく血が流れているのをリアルに作ってある)、引き立てていたり、強姦している図が展示され、子供たちが訪れてそれを見て教育される。教科書や展示が事実だと教えられれば、「日本人は極悪非道の鬼だ」という先入観と悪感情が「作られる」のは当然である。

 「悪」のイメージが勝手にふくらんでしまう。現実を知らない子供たちが、ただイメージの世界だけで「鬼」のイメージを日本人に投影してしまう。ただ知識やイメージとしてのみ教えられ、現実の日本人には会ったこともない、というのが最も危険である。イメージの間違いを修正しようがない。つまりイメージの一人歩きが始まる。

 私も子供のとき、戦争中に「鬼畜米英」と教えられた。本当に米英人は「鬼・畜生のように残酷で恐ろしい」と信じこんでいた。戦争に負けて占領軍が乗り込んでくると、女は全員強姦されるから、どこかに隠さなければならないと本気で言われていた。日本人は皆奴隷にされるとも言われた。そういうイメージが植え付けられていたのである。中国共産党は、戦争をしているのでもない相手に(何度も謝罪し膨大な経済援助をしている国に)、「極悪人」のイメージを押しつけるという仕打ちをしているのである。

 たとえば、小学校低学年の教科書には「中国に侵略した日本軍はとても多くの凶悪なことをしました。放火や略奪の罪は天までとどくほどでした。中国人民に泥にまみれ、火に焼かれるような苦しみを与えたのです。」(勝岡寛治氏による)。

 中国の小学生は1億4千万人、日本の人口より多い。それが一斉に同じ教科書で日本人=極悪人のイメージを教えこまれているのである。もちろん中学でも高校でも大学でも繰り返し悪感情をたたきこまれる。日本を憎むことが愛国なのである。

 教師用指導書には「日本帝国主義への深い恨みと激しい怒りを生徒の胸に刻ませよう」と書かれている(古森義久『日中再考』)。「日本帝国主義」と現在の日本人を理性的に区別できている者がどのくらいいるのだろうか。少なくとも反日デモをやった者たちは、明らかに区別していない。

 中国が言い立て、朝日と左翼文化人が唱和する「被害者の感情」とは、このようにして「作られた」ものなのである。「深い恨みと激しい怒り」という悪感情を煽り立てておいて、日本にその感情を重んじろと迫っているのである。「やくざのいいがかり」といえども、これほど悪質ではないと思えるほどである。

 江沢民政権が十数年にわたって、こういう歴史教育をしてきた。その結果、日本人憎しの感情をもった膨大な若者が作りだされてしまった。彼らが持たされている「鬼子日本」のイメージは、現実とは無関係の幽霊のようなイメージが巨大化したものだけに、始末が悪い。その圧力で現胡錦濤政権は強硬姿勢を取らざるをえなくなっている。身ら作りだした怪物に縛られているのである。

 朝日の社説は、靖国神社に代わる追悼施設を作れば解決するかのように書いている。愚かなものである。中国国民に植え付けられた反日悪感情があるかぎり、その感情をぶっつける口実は靖国以外にもいくらでも見つけられる。根本的には、その理不尽な反日教育をやめさせることが、日中対立を解く鍵である。朝日はこの問題で社説を出すのなら、中国人の歪んだ日本イメージを修正するにはどうしたらいいかを、日中の首脳同士で話し合うことを提案してみてはどうか。

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