エッセイ

6 スズメ蜂の恩返し

 

 二年ほど前に本誌にスズメ蜂に刺された話を書かせていただ いたことがある。

半月ごとに三回、計四箇所をスズメ蜂に刺された。スズメ蜂が異常に発生し た夏のことである。

 俗にスズメ蜂に二度目に刺されたときが一番危ない、死ぬ危険があると言 われている。たしかに二度目が一番重体であった。あとで、死んだ人の話を聞かされ てゾッとしたり、無事生きていることを喜んだりしたものである。

 もとはと言えば、別荘のベランダの軒先に巣を作ったのを、殺生はしたく ないと仏心を出して駆除しなかったのが原因なのだが、刺されたときは不注意だった 自分を棚に上げて、恩を仇で返すとは何事かと腹を立てたものである。

 あとになってスズメ蜂に関することがいろいろと分かってきた。スズメ蜂 に刺されて死ぬ人というのは、じつは食事が片寄っていて栄養のバランスが崩れてい たり、添加物の入った食品を食べていた人に多いという話を聞いた。私が三度も刺さ れても死ななかったのは、食事に気をつけていたことも大きく影響していたらしい。 と言って私が自慢することではない。妻がいつも食事に気をつけてくれていて、添加 物のない無農薬の有機栽培の食品を使っていたのが、命を守ってくれたと言えるよう である。

 二度目に刺されたときに死ぬ人が多いのは、抗体反応が関係しているらし い。一度目に刺されたあと、抗体反応が強くなっているので、あまり強すぎる場合に は死にいたるということらしい。食事に気をつけている人は、その反応があまりに急 激に強くならないように、適度にする力が体に備わっているのではなかろうか。そう 言えば、花粉症やダニアレルギーでも、抗体が間違って敵でないものを攻撃すること から起こるそうだが、そうした間違いは食事の取り方とも関係していそうである。

 そういう意味では、常日頃の食事が大切であるということを改めて教えて くれたのは、巣を守ってやった私に対するスズメ蜂の恩返しかもしれないと思った。

しかしスズメ蜂の恩返しは、もっとすばらしい形をもって、私に返ってきた のである。

 その年の冬から、私は風邪をひかなくなったのである。ひいたかなと思っ ても、次の日にひどくならなくて、すぐに治ってしまうのである。毎年、風邪に弱い 私は、一度風邪をひくと二週間ぐらいぐずぐずしているのが常であった。このごろの 風邪は質(たち)が悪く、なかなか治らない。その風邪がすぐに治ってしまうというの は、私にとってたいへんな幸せである。このことを私は勝手に解釈して、スズメ蜂に 三回も刺されたために抗体反応が強くなっていて、風邪のウイルスをすぐにやっつけ てしまうからであろうと考えた。

 スズメ蜂は私に対して立派に恩返しをしてくれたと思える。それにしても 、日頃から食事や生活規律に気をつけて、健康な体にしておくことは、いざ災難に出 会ったときに大きな違いをもたらすことを、改めて思い知ったことであった。

   (「月刊健康」平成9年4月号・第460号)